2011年06月16日

【通勤連載:桜の詩 35】

『新緑の風(2) -Suguru Side- 』


情報の授業で出た課題提出が今日までのため、部活前にやることになった。
早く体を動かしたくて仕方ないのにとぼやきながら、パソコン室へ向かう。

パソコン室では、一人の女子生徒がパソコンを使っていた。
背を向けているため顔はわからないが、キーを打つ小気味よい音が響く。

「すげぇ」

思わず言葉が漏れた。
キーを打つ速さもだが、彼女は一切キーボードに顔を落としていなかった。

パソコンが苦手な自分にとっては別世界の人に見える。

邪魔しないよう、そっと背中合わせの位置に座り作業を始める。
…がさっぱり進まない。

頼りになる従兄弟にヘルプのメールを打つが応答なし。

ため息が出た。

今の時代パソコンは使えて当たり前と言われても、どうしようもなく苦手だ。

専門的な言葉は多いし、操作も複雑。慣れれば簡単とは言うけど慣れる気がしない。
パソコンが面白いというクラスメイトもいるけど、自分は体育館を走り回ってる方が数倍楽しい。

そんなことを思いながら、数字を入力するが計算結果がゼロのまま変わらない。さっきからずっと。

「あーもう!なんでなんなんだよ!」

イライラして思わず叫んでしまった。

「あの」

声をかけられ、人がいたことを思い出し振り向くと、背中合わせに座っていた女子生徒が立っていた。

「すみません、うるさかったですか。」

ネクタイの線の色が白のため相手は二年生。
先輩と同じ学年かと思いながら、敬語が出る。

「それは大丈夫なんですが、もしかしなくても苦戦してますか」
「えっと、はい、あの、ここの計算が」

その先輩は遠慮がちに画面を覗きこむ。
長い髪が綺麗に揺れる。

「ここ、数字じゃなくて文字列になってますよ」
「えっ?」
「この値を入れるセルの書式が文字列になってるから、計算式が反応してないの。だから書式設定を…」

半信半疑で先輩が言うように、設定を変更すると計算結果が出た。

「すげー!ありがとうございます」

嬉しさに興奮を抑えきれないままお礼を言うと、その先輩は照れたようにフワリと笑った。


タグ:桜の詩
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2011年05月30日

【通勤連載:桜の詩 34】

『新緑の風(1) -Yuki Side-』


桜はすっかり散り、新緑が眩しくなってきたある日。

「悪い早河、これ頼む」

放課後、職員室に呼ばれ柿山先生から渡された手書きの書類と鍵と文字か羅列されたメモに首を傾げた。
そんな私を見て、柿山先生は「あぁ、すまん」と言って説明を追加してくれた。

「確か早河、前の学校で情報技術科だったよな」
「はい」
「ならパソコン得意だよな」
「えぇ、まぁ」
「その書類の清書を頼みたいんだ。メモはパソコンのアカウントとパスワードな、どのパソコンも同じだから」
「は…えっ?」
「実は、その書類17時までに学年主任に渡さないとならないんだが、これから会議なんだ」

「だから頼む」と、柿山先生に言われ断る理由もなかったため、私はそのまま教えてもらったパソコン室に向かった。

正直、家にはパソコンがないため久しぶりにパソコンに触れるのが嬉しかった。

初めて入るパソコン室にドキドキしながら鍵を開ける。
適当なパソコンの前に座り、パソコン、文書ソフトと立ち上げ手書きの書類を清書していく。

「えーと、らくだ岩清掃活動…」

部屋にキーボードを打つ懐かしい音が響く。

(良かった、忘れてない)

ほんの2〜3ヶ月くらい触ってないだけだが、パソコンの扱い方を忘れたんじゃないかと少し不安だった。
前と変わらない自分に私は安堵する。

打ち込みと確認で、だいたい15分程度の作業を完了し、壁時計を見た。

時間は4時15分。
会議が終わるのは4時30分と言っていたので、私は一息つくように両手を天井へと伸ばした。


「あーもう!なんでなんなんだよ!」


不意に後ろから声がし、驚いて振り返るといつの間にか背中合わせの席に男子生徒が座っていた。


タグ:通勤連載
posted by 桜月 at 08:51| Comment(4) | TrackBack(0) | −通勤連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月25日

【通勤連載:桜の詩 33】


新緑が空を包み始める

目がくらむようなその緑は

大切なことをそっと隠す

今はそれでも良いと思った


新緑の緑は、心を晴れやかにしてくれるから

タグ:通勤連載
posted by 桜月 at 12:30| Comment(0) | TrackBack(0) | −通勤連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月06日

【通勤連載:桜の詩 32】

『問い(4) -Yuki Side-』


「由紀!」

下駄箱で帰ろうとしていたところ、不意に現れた探し人に由紀は目を見開いた。

「まどかちゃん?」

まどかは息を切らせながら由紀に抱きついてきた。
あまりに勢いよく抱きつかれたため、由紀はまどかを支えきれずによろけてしまう。
倒れそうな所を後ろから誰かが支えてくれたが、同時に鈍い音が聞こえてきた。

「?っ」

痛みをこらえる声に、由紀が首だけ振り返ると彰宏が頭を押さえていた。
下駄箱に頭をぶつけたみたいだ。

「由紀、学校に居て良かった」

まどかは特に気にした様子はなく、由紀に抱きついたまま話し始める。

「まどかちゃん、体調は大丈夫?」
「うん!心配かけてごめんね」

いつものまどかの笑顔に由紀も安心して笑顔を見せた。

「由紀、どうかしたの?目が少し赤いよ。まさかアッキーにセクハラでもされた!?」
「なんでだよ!」

頭をさすりながら黙って二人の話を聞いていた彰宏だが、さすがに割って入った。

「アッキーだから」
「どういう意味だよ」
「まあ冗談として」
「冗談って、おいこら」
「本当にどうしたの?誰かに何かされた?」

文句を言う彰宏を無視して、心配そうに顔を覗きこむまどかに由紀はいつもの笑顔を見せる。

「大丈夫。ちょっと目にゴミが入っただけだから」

そう言いながらも、胸の奥がチクリとする痛みを由紀は感じていた。

タグ:通勤連載
posted by 桜月 at 23:44| Comment(4) | TrackBack(0) | −通勤連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月01日

【通勤連載:桜の詩 31】

『問い(3)-Suguru Side-』


「しまった!私また」

何かに気づいたように、先輩は慌てて立ち上がった。

「私行かないと!またね、後輩くん」

それだけ言うと、先輩は急いでかけていく。

「あっ先輩!先輩のな、まえ…」

卓の声は風に流れた。

(また聞きそびれたし、言いそびれたな)

ため息を一つ。卓は空を仰いだ。

(本当は名前、知ってるんだけどな)

-あれは去年の夏休みだった。

暇を持て余していた俺は誘われて、彰兄の学校のバスケの試合を見にいった。

試合は予想以上に面白く熱くなった。

ふと、隣のコートの試合が目に入った。
彰兄の学校の女子バスケ部の試合。

あと後半10分で返せるかぎりぎりの点差。
応援する人の中には既に諦めている人もいた。

それでも、彼女は諦めていなかった。

彼女はチームの中心だった。

諦めることなくボールを追う彼女に、チームメイトも続いた。
彼女が笑顔で励ますと、チームが活気づいた。

返せるかぎりぎりの点差だったのに、同点に、そして延長で勝利した。
チームメイトと勝利を喜ぶ彼女の笑顔はとても眩しかった。

その笑顔に見惚れていると、不意に彼女がこちらを向いて手を振る。

胸がどきりとした。

彼女が手を振った相手は隣にいた彰兄。
後で聞いた話だとクラスメイトらしい。

両親が海外赴任するから残る俺は、高校は寮があるとこと言われすぐに彰兄の高校が浮かんだ。

彰兄もいるし、寮もバスケ部もある。何よりもう一度、彼女のあの笑顔を見たかったから。


彼女の名前は…

「樋口、まどかさん…か」

タグ:桜の詩
posted by 桜月 at 13:34| Comment(4) | TrackBack(0) | −通勤連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする